日本のエッシャーと呼ばれる、安野光雅さんを好きな理由は、その圧倒的な画力だけではなく、豊かな思想と哲学を持っていることです。
1926年生まれ。絵本作家としても、世界的に知られる著者ですが、残念ながら私が安野さんの魅力にどっぷり浸かるのは大人になってからです。もちろん、絵本はいくつか知っていましたが、安野さんの絵本で育った幼少期ではありませんでした。。
大学を卒業して、名古屋市の鶴舞に一人暮らしをしていました。鶴舞は今でこそ減ってしまいましたが、古本街と呼ばれたアーケードがありました。全国的にみても規模の大きな鶴舞図書館もあることから、本を求める人の姿が多い街だったのでしょう。
当時の私は、古本と古着を探すのが趣味で、骨董にはまだ目覚めていませんでしたが、自宅のすぐ近くに金山ノスタルジーマーケットという奇妙な場所があり、古いものに触れるのが唯一の癒しでした。そして暇さえあれば、リサイクルショップに出かける、変な女子。案外、この趣味を共有してくれる友人はいなかったのです。
本はというと、画集や写真集といった、アイデアソースを探すことが目的でしたが、ある時古本街で100円(!)コーナーを見ると、安野光雅氏の空想工房という本があり、手に取ると、あれ、この人…とすぐに画家の安野さんと一致しませんでしたが、タイトルが気に入って購入。カバーが無いための破格でした。
読んでみると、挿絵もご本人のものと分かり、これはあの安野さんだと理解しました。
数学や、騙し絵の本もいくつか出されているので、その空想は物理学でも学んでいるようでした。
本を読みながら鼓動が速くなるのがおさめられず、それから私は彼の絵本などを探して集めました。子供の頃にも見たヨーロッパの景色が描かれた旅の絵本、シュールかつユーモア溢れるABCの本は、初見の衝撃を忘れられません。
谷川さんの言葉の、人間の想像力と〜の文は、私自身も、仕事や人生において関わる人やモノにたいして、大切にしていたい部分です。
完全な私の趣味の押し付けだけど、友人の子に安野さんの絵本を贈ろうとおもいます。正直、見てくれるのは何年か先だろうけど、絵本とはいえあなどるなかれ、今開いてみても、知見を広げてくれる本です。季節の草花、世界の童話、日本の伝統、錯視やシャレ…隠されたものにどれだけ気付けるか、まるで自分の教養を試されているような、なんと奥深い本なのだと、まさしくめまいがしてしまいました。